営業とは何か?──商品を売る仕事ではなく、顧客の悩みを解決する仕事

会社員時代、新規のテレアポでようやく取れたアポイントに、初めて訪問したときのことです。
私はその日、自社商品の説明を一度もしませんでした。
自分が何者で、どんな商材を扱う会社の人間なのか。最初に伝えたのは、それだけです。
あとはひたすら、社長の話を聞いていました。
仕入れから販売までの流れの中で、どこに手間がかかっているのか。
何がうまくいっていないのか。
何に困っているのか。
「買ってください」とは、最後まで一言も言っていません。
商談の終わり際、社長からこう言われました。
「今度A社から買う予定だったんだけど、金額が合うならキミから買ってもいいよ」
金額にして、約700万円。
もちろん、毎回こんなことが起こるわけではありません。
私が新規開拓で訪問した会社は数えきれないほどありますが、その多くは見込みなしで終わっています。
それでも、この日のことを今も鮮明に覚えています。
なぜなら、結果そのものは珍しくても、「営業とは何をする仕事なのか」という問いへの答えが、この商談には詰まっていたからです。
「営業の仕事とは何ですか?」
そう聞かれたとき、あなたなら何と答えるでしょうか。
商品を売ること。
契約を取ること。
売上をつくること。
どれも営業にとって大切なことです。
しかし私は、そのさらに手前に、営業が果たすべき本質的な役割があると考えています。
営業という仕事を一言で表すなら、こうです。
営業とは、顧客の悩みを解決する仕事である。
この記事の要点は、約1分の動画でも解説しています
商品を売ることは「目的」ではない
営業には、当然ながら商品やサービスを販売し、売上をつくる役割があります。
しかし、お客様は「営業から商品を買うこと」そのものを目的にしているわけではありません。
お客様の側には、何らかの悩みや課題があります。
- 業務をもっと効率化したい
- 売上を伸ばしたい
- コストを削減したい
- 人手不足を解消したい
- 将来への不安をなくしたい
その悩みを解決するための一つの手段として、商品やサービスを購入します。
つまり、顧客の視点に立てば、
商品を買うことは手段。
悩みを解決することが目的。
です。
だから営業も、「商品をどう売るか」から考えるのではなく、まず「顧客の何を解決するのか」から考える。
この順番が、非常に重要だと思っています。
顧客が買っているのは、商品だけではなく「その先の価値」
では、なぜ顧客は商品やサービスにお金を払うのでしょうか。
法人営業において、顧客が求めているのは、多くの場合、商品そのものだけではありません。
その商品によって得られる「価値」です。
たとえば、営業支援システムを導入する企業が、本当に欲しいものは「システムを所有すること」でしょうか。
おそらく違います。
営業活動を効率化したい。
案件を管理しやすくしたい。
営業の属人化を減らしたい。
売上を安定させたい。
そうした状態を実現するために、システムを購入しています。
商品やサービスは、あくまでその未来にたどり着くための手段なのです。
「何を売るか」より、「何を解決するか」
営業が商品を売ることだけに意識を向けると、商談の中心はどうしてもこうなります。
「この商品の機能は……」
「他社製品と比較すると……」
「価格は……」
もちろん、こうした説明も必要です。
しかし顧客にとって重要なのは、商品の説明だけではありません。
「それによって、自分たちの何が良くなるのか」
です。
だからこそ営業は、商品を説明する前に、まず次のことを理解する必要があります。
- このお客様は、何に困っているのか
- なぜ、それに困っているのか
- どうなれば、このお客様にとって理想なのか
商品知識は、営業にとって欠かせません。
しかし、商品知識だけでは十分ではありません。
顧客を理解して初めて、「この商品のどこに、この顧客にとっての価値があるのか」が見えてきます。
冒頭の商談で、私が社長に聞いていたのも、まさにこの部分でした。
「どう売るか」を考えるより先に、まず「この会社では何が起きているのか」を理解しようとした。
結果として、それが約700万円の商談につながりました。
「では、売上目標は無視していいのか」
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。
「営業には数字の責任がある。顧客の悩みを聞くだけでは仕事にならない」と。
その通りです。
営業である以上、売上をつくることは大切な責任です。
これは、「売るな」という話ではありません。順番の話です。
まず顧客を理解する。そのうえで、自社の商品で解決できるのであれば、しっかりと提案する。
反対に、自社の商品では解決できないと分かったのであれば、無理に売らない。
私は、この判断ができるかどうかも、営業にとって重要だと考えています。
目の前の売上だけを優先してしまえば、その一件は受注できるかもしれません。
しかし、長く顧客から選ばれ続けるためには、「この人は、自分たちにとって本当に必要なことを考えてくれている」と思ってもらうことが欠かせません。
売上をつくることと、顧客の悩みを解決することは、対立するものではない。
むしろ私は、顧客の悩みを解決した結果として、売上が積み上がっていく営業を目指すべきだと考えています。
この視点を持つと、営業の「姿勢」が変わる
「営業の仕事は商品を売ること」
そう考えていると、商談では自然と、「どうすれば買ってもらえるか」という視点が強くなります。
一方で、「営業の仕事は顧客の悩みを解決すること」と考えると、「このお客様にとって、本当に必要なものは何だろう」と考えるようになります。
似ているようですが、この二つは大きく違います。
言い換えるなら、
自分の商品から顧客を見るのか。
顧客から自分の商品を見るのか。
という違いです。
自分の商品を起点にすれば、「どう売るか」を考えます。顧客を起点にすれば、「何を解決するか」を考えます。この順番の違いが、商談での質問や提案、そして顧客との向き合い方そのものを変えていきます。
そして、「この人は、自分たちのことを考えてくれている」そう感じてもらえたとき、そこに信頼が生まれます。
私は、この「信頼」こそが営業の土台だと考えています。
まとめ:営業とは、顧客の悩みを解決する仕事
営業について考えるとき、私はいつもここに立ち返ります。
- 営業とは、顧客の悩みを解決する仕事である
- 商品は、その悩みを解決するための手段である
- 顧客が求めているのは、商品そのものだけではなく、その商品によって得られる価値である
だから営業が最初に考えるべきことは、「どう売るか」ではなく、「何を解決するか」。
冒頭で紹介した約700万円の商談も、振り返れば同じでした。
もちろん私は営業として訪問している以上、最終的には自社の商品を買っていただきたいと思っていました。ただ、その場で商品を売ることを急いでいたわけではありません。
まず、その会社で何が起きていて、社長が何に困っているのかを理解しようとしていました。
結果として、自社商品の説明を一度もしないまま、「キミから買ってもいい」と言っていただけた。
営業とは何か。
私は、その答えは「売り方」の中ではなく、「顧客との向き合い方」の中にあると思っています。


